本研究室では、パルスパワー・プラズマ・高電圧絶縁と、幅広い分野を扱っており、最先端の研究から企業との共同研究による実践的な研究まで学ぶことができます。以下に研究室の専門分野と研究内容について解説します。
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専門分野の紹介
(1)パルスパワーとは?
パルスパワーとは読んで字のごとく、パルス「短時間の間に急峻な変化をする」パワー「電力」のことです。まずは身近な例を示すと自然現象の雷は、まさにパルスパワーです。雷は、稲光と轟音を伴って一瞬にして発生するため、瞬間的にエネルギーが放出されることをイメージできると思います。仮に雷の電圧が1千万V(ボルト)、1万A(アンペア)とすると、電力は「電圧」×「電流」=100 GW(ギガワット)となります。これは日本中で発電している電力に匹敵します。一方で、エネルギー(ジュール)は、電力(ワット)×時間(秒)で表すことができます。例えば、100(ワット)の掃除機を1(秒)使用すると、100(ジュール)となります。この100(ジュール)を1ナノ秒(10億分の1秒)の一瞬で使用することができれば、日本中で発生する電力100 GW(ギガワット)を得ることができます。このように、エネルギーを圧縮し、一瞬のうちに取り出す技術をパルスパワー技術と呼び、様々な産業応用の利用可能性を秘めています。
パルスパワーは様々なエネルギー形態で利用することができます。雷の例で示すと、雷は空気を分解したプラズマ状態(次の章(2)で説明)となり温度が数万度にも達し、プラズマが急激に膨張するため、衝撃波も発生します。このように、パルスパワーは物質に物理的・化学的な作用を起こすことができ、様々な応用が考えられています。例えば、パルスパワーでコンクリートを破砕するリサイクル技術、水の中にパルスパワーによる放電を発生させる水浄化技術、排ガスを分解処理する環境技術、水中衝撃波により腎結石や尿管結石を破砕する医療技術、パルスパワーによるきのこの増産技術、食品の殺菌技術など、横断的分野で活躍しています。
本研究室ではパルスパワーの新しい応用分野を確立を目指します。
(2)プラズマとは?
宇宙の99%はプラズマで出来ていると言われています。例えば、太陽、オーロラ、炎、雷もプラズマです。通常は図のようにエネルギーを加えていくと(固体➡液体➡気体)と、3つの状態に変化します。さらにエネルギーを加えると、物質がイオンと電子に分離してバラバラになり、「プラズマ」と呼ばれる高エネルギーの状態になります。プラズマは第4の状態とも呼ばれることもあります。
プラズマは産業応用の観点から非常に有用であり、プラズマによる微細加工技術は、昨今半導体不足で話題になっている、半導体製造に欠かせない技術です。すなわち、以下に示すような様々な機器の製造をプラズマが支えていることになります。
- コンピュータ(パソコン・スマートフォン・タブレット…)
- 自動車(カーナビ・自動運転装置…)
- 家電(液晶テレビ・空気清浄器…)
- エンターテイメント(ゲーム用デバイス…)
本研究室ではパルスパワーによるプラズマで新しい産業応用を開発します。
(3)高電圧絶縁とは?
高電圧絶縁技術は放電(プラズマ)を抑制するための技術です。高電圧を発生させ、絶縁が弱いと図のように高電界で空気をプラズマ化します。このプラズマを有効利用する分野もありますが、高電圧で電気を送る際には絶縁する必要があります。高電圧で使用する機器も絶縁が必須です。絶縁技術は以下の分野で活かされています。
- 電力輸送設備(送電線・変電所・遮断器…)
- 鉄道用電力設備
- 産業用大型モータ
- パワーエレクトロニクス
- パルスパワー電源
- etc.
本研究室では企業と協力し新しい絶縁診断技術を開発しています。
研究内容の紹介
(1)超臨界流体中の放電プラズマの基礎研究
通常、物質は (固体、液体、気体)の3態で考えますが、実は圧力と温度を上昇させていくと、「超臨界流体」と呼ばれる、気体と液体の両方の性質を併せ持つ状態になります。 超臨界流体が応用されているのは、 抽出・分離・洗浄などで、具体的には、 天然物質から化粧品・医薬品・香料などの有用物質の抽出、難分解性物質の分解、半導体の洗浄プロセス等の分野で活発に研究開発が行われ、実証実験を経てプラントを提供する企業も多数存在しています。 一方で、放電プラズマの適用という観点から眺めると、気体中では放電プラズマによる排ガス処理、液体中では水中放電プラズマによる汚水処理、固体中では放電プラズマによるコンクリートリサイクルなどの応用が開発されています。この媒質を活性化する放電プラズマの特徴を活かして、超臨界流体中でも応用が開発できるのでは?というのがこの研究に着目した理由です。
本研究では,パルスパワーにより超臨界流体中にプラズマを生成することで,高効率な材料合成や抽出技術を確立し,新しい反応場の創生を目指します。世界的に見てもこの研究は珍しく、最先端の研究を実施しています。
(2)水上放電プラズマに関する研究
(2-1) 水上放電プラズマによる水の浄化
工場排水、生活排水による水質汚染は深刻な環境破壊を引き起こすため、持続可能な社会の実現に向けて水質浄化の技術開発が求められています。本研究室では、高電圧・パルスパワー技術によって水面に「人工的な雷(放電プラズマ)」を発生し、水質を改善する研究に取り組んでいます。薬剤を使用しないため、環境に優しい技術として注目されています。
(2-2)水上放電による水中衝撃波の生成
水中衝撃波は腎結石の破砕、ダムや池を覆いつくす微細藻類の処理など有用な応用があります。最近の研究ではテッポウエビが水中衝撃波で獲物を気絶させているという面白い研究もあります。これまでの研究では水中で発生させたプラズマによる衝撃波の研究しかされていませんでしたが、本研究室では、レーザーを用いた観測技術を用いることで、水上放電からも水中へ衝撃波を発生させることができることを見出しました。現在はより強い衝撃波を発生させるべく試行錯誤しています。
(3)産業用大型モータの絶縁診断(企業共同研究)
現在、発電所、石油化学プラント、製鉄所などのポンプ、コンプレッサ、ファンなどで用いられる大型(数百kW以上)の産業用モータは定期的な分解点検によって安全性を担保しています。主な劣化の原因は高電圧印加箇所から発生する放電プラズマです。放電プラズマによってオゾンが発生し、モータを劣化させます。しかし、分解にはコストと時間を要することから分解を必要としない簡便な点検手法の開発が強く求められています。本研究では環境要因で補正したオゾン濃度を用いるオンライン絶縁劣化診断装置を開発しています。(特願2021-004518)
(4)糖尿病の超音波治療法の開発(医工連携共同研究)
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科内臓機能生理学の井上剛教授との共同研究です。我が国での現在の透析医療費(糖尿病の治療)は年間約1兆6000億円の費用が掛かっているうえに,糖尿病の根本的な治療法は確立されていません。井上先生は,マウスに超音波を照射する実験により,腎臓が保護される研究成果を発表しています。この成果により超音波刺激が糖尿病の治療法として利用できる可能性が見出されましたが,まだ詳細な機序は明らかになっていません。そこで,本研究室では,超音波の物理作用(圧力・キャビテーション)を明らかにし,腎臓保護作用の機序の解明に寄与することを目指しています。